【中編】ベトナム株に投資(購入)しても大丈夫なのか?今後伸びる産業は?

前回までの振り返り

本記事はSBI証券で取り扱っている外国株の中で私が最も魅力的と感じているベトナム株の市場調査を行った結果と、それに対する私の所感を述べているものです。前回までの流れは以下の通りです。

 

・SBI証券の中で最も魅力的な外国株はどれか?という観点で調査した記事(下の記事)

日本株と外国株はどちらが投資対象として魅力的か(ベトナム株に注目)

 

・ベトナム株がデータとして魅力的なのは分かったが、実際安心して買える市場なのか?特に成長している産業は何なのか?という観点で調査した記事(下の記事)

【前編】ベトナム株に投資(購入)しても大丈夫なのか?今後伸びる産業は?

 

前の記事(前編)ではベトナムの政治・経済に注目して調べ、不安要素はあるもののそれ以上に期待できる要素の方が多く、比較的安心して買える市場ではないかというところまで解説しました。そしてベトナム内で伸びている産業についても『工業』と『サービス』であること、『工業』の中でも『製造業』が特に成長している分野であると解説しました。

 

今回の記事はその続きで、ベトナムの財政状況を調べることで経済破綻リスクがどの程度あるか、ベトナム政府の出している成長戦略を確認することで伸びている産業以外にも注目しておく分野は無いのか、ベトナムの株式市場の構造を確認することで投資における注意点等を解説していきたいと思います。

 

尚、本記事でも前回記事に引き続き、以下引用元(三菱UFJリサーチ&コンサルティング様の調査レポート)に基づいて解説していきますので、ご承知おきください。

 

引用元:三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2018年3月16日開示の調査レポート)

http://www.murc.jp/thinktank/economy/analysis/research/report_180316.pdf

 

ベトナムの財政状況

ベトナム株に投資するのであれば、ベトナムという国の財政状況も把握しておく必要が有ります。前回記事の政治・経済と同じで国の財政状況に何らかの問題が有るとなった場合、急激な法定通貨安や経済成長の悪化等に連鎖する可能性があるためです。

 

本章では一般的に良く使われる『経済収支』、『財政収支』、『外貨準備』等の観点でベトナムの財政状況を確認していきたいと思います。

 

ベトナムの経常収支について

前回の記事でベトナムは『貿易収支』が黒字の国家と解説しましたが、『経常収支』についても近年は黒字で推移しています。

 

※引用レポート18ページ目の記載を抜粋

 

『経常収支』は簡単に言えば「自国から他国に出たお金」と「他国から自国に入ったお金」の差で、『経常収支』が黒字ということは他国からお金を集める力がある(国の稼ぐ力と言われたりします)とされます。

 

厳密には『経常収支』の中の内訳次第で解釈が異なったり、国家間の経済取引をより広い範囲でまとめる『国際収支統計』という存在がありますが、そこら辺の話を始めると複雑になりすぎるので、本記事では細かく説明しませんが、基本的には黒字の方が良いものという認識で良いかと思います。

 

『経常収支』が黒字となっている理由の大部分は上の画像で分かる通り、『貿易収支』に依るものです。前回の記事でも解説しましたが、貿易黒字の大部分を担っているのはアメリカとの貿易であり、アメリカの関税強化の流れが今後どのように影響してくるかが未知数です。

 

とは言え、直近で公表された2018年のベトナムの貿易収支(5月時点)は5月の収支が悪いものの大きな黒字を出しているので、現状では経済成長を阻害するほどの問題は無いであろうと考えます。

 

ベトナムの財政収支について

ベトナムの『経常収支』は黒字でしたが、一方で『財政収支』は慢性的な赤字を出しています。その赤字規模はGDP比率でみると他のASEAN諸国と比べても大きい水準です。

 

※引用レポート9ページ目の記載を抜粋

 

『財政収支』は政府の歳入と歳出の差であり、これが赤字ということはベトナム政府が国の運営を税金等の歳入で賄えていないということになります。

 

『財政収支』が大きな赤字となっている主な理由は引用レポートによると以下3つのようです。

 

  • 原油価格下落による国有石油公社からの国庫納付金減少(主に2009年)
  • 景気刺激策による歳出増加(主に2009年)
  • ASEAN 自由貿易地域の協定で大幅に輸入関税撤廃したことで歳入が減少(主に2012年)

 

・・・内容を見る限り今後改善するかは非常に微妙なところと言わざるを得ないと感じますね。このまま赤字体質が続いて『公的債務残高』(政府の債務)が増大していくと、財政破綻まではいかなくとも、国家の信用低下により大幅なドン安やインフレに繋がる可能性も有るので、株式投資した場合も監視する必要有りかと思います。

 

公的債務残高のGDP比率65%という重要な指標

ちなみに日本やアメリカも『財政収支』が大赤字だから大した問題ないでしょと思うかもしれませんが、経済大国と新興国の信用度が同じな訳はありませんし、ベトナムは『公的債務残高』をGDPの65%以下とするルールを設けていますので、この65%という水準を超えることが確実視されれば一気に経済不安が強まる可能性があります。

 

※引用レポート10ページ目の記載を抜粋

 

上記画像を見ると分かりますが、2016年には『公的債務残高』が60%の水準に達しました。直近の『公的債務残高』が調べた感じでは見当たらなかったのですが、危険域に近い水準に有ることは間違いないでしょう。一応、2018年4月末時点で55.9%に低下しているというニュースは見つけましたが、全文を読めないので本当かは分かっていません。

 

ベトナム政府もこの数字は強く意識しているようで、近年は歳出の削減を進める動きが大きくなっており、今までベトナムの経済成長を牽引してきたインフラ整備等の内需への資金流入が停滞する可能性があります。実際既に公共工事の支払いを停止したり、インフラ整備が滞る事例も出ているようです。

 

インフラ整備等の内需への資金流入が滞れば経済成長も現状の水準を維持し続けるのはかなり苦しいと思われますので、この『公的債務残高』問題をベトナム政府がどう乗り切るかは注視する必要が有るでしょう。

 

ベトナムは外貨準備が少ない?

日本では『外貨準備』で蓄えているお金のことを『使い道の無い死に金』と言われることも有りますが、実際は金融危機等が起きて自国通貨が一気に売られた場合に為替介入を行うための資金であり、『外貨準備』が多いほど緊急時でも為替を維持できるということになります。

 

 

ベトナムに関しては上記画像の通り、同じASEAN内のタイやフィリピンと比較しても、『外貨準備』の少なさが際立っていました(GDP差を考慮しても少ない)。

 

『外貨準備』の適正水準については色んな見解があるようですが、一般的には輸入額の3ヶ月分程度が必要と言われています。2018年5月の貿易収支のニュースを見る感じですと、1か月の輸入額は大体200億ドルなので、600億ドルを超えていれば適正水準と言えますが、2017年前半時点で400億ドル前後しかありません。

 

ですが実はこの話には続きがあり、ベトナムは2017年から2018年の現時点までに急速に『外貨準備』を増やしており、2018年5月の外貨準備のニュースでは630億ドル程度にまで増えていると政府から発表されています。

 

そのため、一旦は余裕のある『外貨準備』の蓄えとなっておりますので、急激な経済変化が起きても為替が一気に悪化する可能性は少ないと判断出来るかと思います。特にベトナムは為替に制限を掛けていたりもするので、急激な変化には特に強いと思われます(慢性的に悪化するとどうしようも無いと思いますが)。

 

ベトナムは何故世界的な金融危機の中でも経済成長できたのか

上記までの記事内容を閲覧いただくと分かると思いますが、ベトナムは財政収支等に大きな不安を抱えています。

 

ただ、もしも本当にベトナムの財政が弱いものであったなら、現在よりも弱い財政状況の中で迎えた『アジア通貨危機』や『リーマンショック』という世界的な金融危機の中で何故経済成長を続けることが出来たのでしょうか?

 

その答えはリーマンショック後に出された2011年時の三菱UFJリサーチ&コンサルティング様のレポート(下記引用元)を読むと理解できますが、以下の一文にほぼ全て集約されています。

 

『リーマンショック後の世界的景気後退を引き起こした主因は、欧米系金融機関の経営悪化による信用収縮・資金海外流出であった。しかし、ベトナムの金融市場は海外からほぼ遮断されていたため、欧米系金融機関のベトナムでのエクスポージャーが小さかったので、そうしたダメージはなかった。これが、リーマンショック後にベトナムが大幅な景気後退を免れた最大の理由である。』

 

引用元:三菱UFJリサーチ&コンサルティング(リーマンショック後の2011年3月11日開示の調査レポート)

http://www.murc.jp/thinktank/economy/analysis/research/er_110311_01.pdf

 

つまりベトナムは市場経済を導入しつつも、中国同様に金融市場(具体的には短期資本移動や為替取引等)を厳しく制限することによって、世界的な金融市場の影響は受けにくいという特徴があるということです。

 

それ以外にも、リーマンショック後はベトナム政府が素早く利下げや利子補給(銀行の金利を政府が補助する制度)、財政出動等の景気対策を行うことで景気を維持したようです。これらは一党独裁の社会主義という性質上、ベトナム政府が果断な対応を取れたことが大きいのでしょう。

 

そういったベトナム独自の背景を踏まえると、ベトナムの財政面自体は確かに不安があるかもしれませんが、今後も『リーマンショック』のような世界的経済危機が来たとしても致命的な状況にはなり辛いのではないのかと感じます。当然金融危機の内容次第になるとは思いますが。

 

ちなみに『アジア通貨危機』の影響が薄かったのは、当時のベトナムには証券取引所が無かったことと外国為替も実質的な固定相場であったことが大きいらしいです。無論『リーマンショック』同様に金融市場の対外開放がほぼされていないため、それらの要因が無くても影響は限定的であったとは思います。

 

尚、混同しないで欲しいのは世界的な金融危機の中でもベトナムの経済成長が維持できるから、株式市場も大きな下落は無いという意味ではありません。実際株式市場は外国人の保有量が多くありますので、世界的な金融危機の場合はそれらの資金が引き上げられることによって、株式市場は下落する可能性が高いです。

 

ベトナムの財政状況まとめ

上記までの解説した内容をまとめます。

 

【好印象】

  • 経常収支は近年黒字で推移している(貿易収支の黒字が大きい)
  • 2018年も5月時点では通算貿易収支が黒字のため、経常収支も黒字で終わることが期待出来る
  • 外貨準備は適正水準を蓄えているので、急激な為替悪化には対応可能と思われる
  • 金融市場を厳しく制限しており、ベトナム経済は世界的な金融危機の影響を受けにくい

 

【悪印象】

  • 財政収支は慢性的な赤字
  • 公的債務残高が65%の上限に近づいており、財政不安に繋がる可能性がある
  • 公的債務残高の増加を抑えるために政府の歳出が減り、経済成長が維持できない恐れがある

 

こうやって並べると好印象も多いですが、やはり『財政収支』の赤字とそれに付随する『公的債務残高』の増加問題が一番の懸念点であると感じます。

 

まぁ、『公的債務残高』の65%ルール自体はベトナム政府がその気になれば上限を広げることは可能なので、財政破綻リスクとまでは現状見ていません。ただ、その発表をしたときに市場がどう反応するかが重要でして、私の予想では財政不安からベトナムの法定通貨であるドンが売られる(ドン安)になるのではなかろうかと見込んでいます。

 

そのドン安が起きた時にどの程度の規模となるかはちょっと予想できませんが、外貨準備や為替制限によって急悪化自体は一定抑えることが可能なので、発表されたら様子を見ながらベトナム株は一旦売る等の戦略は予め決めておく方が無難かとは思います。

 

正直今回の調査を始めるまではベトナムの財政状況は大した問題はないだろうと根拠もなく思っていましたが、中々に面倒な問題があって若干購入意欲が減ったのは間違いないです。ただ、上で述べたようにリスクが顕在化した時に即対応すれば致命的な状況にまでは至らないものだとも考えています。

 

他にも楽観的な見方として、ベトナム政府や国際通貨基金(IMF)、アジア開発銀行(ADB)、世界銀行(WB)はいずれもベトナムの2018年経済成長率を6.5%以上で予測しており、今のところは経済に致命的な問題が発生する程の状況とは見込まれていないのではないかと思います。

 

そのため、リスク・リターンの期待値で見た場合のベトナム株の優位性については崩れておらず、投資対象として魅力的だという私のスタンスは変わっておりません。

 

最後に

今回の記事ではベトナムの財政状況を調査し、ベトナムが安心して投資できる市場なのかという部分を重点的に解説していきました。

 

前回同様に今回も財政状況の解説だけで記事の文字数が想像より膨らんでしまったため、予定していたベトナムの成長戦略や株式市場の解説については次の後編に回します。それらの解説が終わったら、次は伸びている産業や成長戦略等を踏まえた個別銘柄選びの記事を書きたいと思います。

 

それでは今回は記事を閲覧いただきありがとうございました。

 

【2018/7/6追記】

本記事の続きとなる後編を公開しました(下の記事)。興味があれば閲覧下さい。

【後編】ベトナム株に投資(購入)しても大丈夫なのか?今後伸びる産業は?

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